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更新日:2018.02.07

[平成29年]日本のホームレスは5,534人に減少
1人の経験者の声を聞いてみませんか?

当事者インタビュー:Fさん(男性・68歳)

#茨城 #60代 #路上生活 #救急搬送

「ホームレスの実態に関する全国調査」

毎年、厚生労働省が所管し、ちょうど年明けの1月から2月に全国の自治体が実施する「ホームレスの実態に関する全国調査」。
昨年、平成29年調査では、全国のホームレスは5,534人と発表されました。
ホームレスが1番多かったとされる平成15年調査の25,296人とくらべると、「2万人ちかく減った」ということになります。(平成30年調査の結果は2/7現在まだ出ていません)

減少傾向とはいえ、5千人以上が路上でくらすという日本の現状。
しかしながら、私達が送る毎日の中でホームレスの人から実際に話を聞く機会はないに等しく、「ホームレス5,534人」と言われてピンとくる人はかなり少ないのではないでしょうか?

今回の当事者インタビューは、ホームレスを22年経験した男性のお話。
おそらく実態調査でもカウントされたと思われる1人の経験者を通して、「ホームレス」とはいったい「どんな人」なのか、その実像を伝えます。

茨城県内で定住型ホームレスに

Fさん(男性・68歳)が、かつて野宿しつつ、東京から茨城に徒歩でたどり着いたのは
1998年の3月。49歳の時でした。
まず小屋を建ててくらしたのは牛久沼のほとり。次に、隣接する取手市の河川敷に小屋を建てます。

大工の経験もあったFさんは、近くで見つけた大学のごみ捨て場から廃材と工具を拾い集め、はじめに3畳ほどの小屋を建てました。(その後、火事をおこすまで増改築を繰り返して大きくなります)
そして、そのごみ捨て場には学生がキャンパスを離れる際に捨てていく生活用品や家具もあり、ベッドも手に入れることができました。

Fさんは都内で3年と、この小屋を拠点に19年、合計22年におよぶ長期ホームレス生活をすることになります。ほとんどの食事は小屋で自炊。
1日に使うお金は300円から多くても500円程度。食材のほか米や調味料を買うため、そして「生きるため」にFさんはホームレスでもやれる範囲の仕事をしていました。

どんな仕事をしていたのか?

Fさんがお金を稼ぐためにしていたのは主に廃品回収。
空き缶を拾い集め、3日ほどためるとリサイクル業者に買い取ってもらうことで生活を成り立たせていました。
例えば、アルミ缶は1キロあたり70円。一番多く集めた時には100キロ=7,000円と2~3週間分の生活費を稼いだこともあります。

こうしたホームレス生活を続ける上で役に立ったのはFさんのこれまでの職業経験。陸上自衛隊にはじまり、大工や土工などの建設業、調理師免許も取得した飲食業など、数多くの仕事をしてきたことが小屋づくりや自炊生活に生きたのでした。

ホームレスになった理由

さかのぼること20年以上まえ。
18歳から数えきれないほどの仕事を転々とし、気がつくと40代なかばに。
最後の最後に東京の中華料理店で働いていたFさんでしたが、職場の人間関係が原因で退職。無職になりました。

家賃滞納からアパートに帰ることができなくなり、不景気から再就職先も見つけることができなかったFさん。「やけっぱち」「どうにでもなれ」と心も体も疲れ果て、ついには自ら命を絶つことを選択します。

しかし、
「服に石をつめて川に飛び込むと体が浮いてしまった」
「高いビルから飛び降りようとしても高いところが苦手で足がすくんでしまった」というように、ことごとく失敗。

「死ぬ気力もなくなった」と当時を振り返ります。

つまり、Fさんは、好き好んで20年以上におよぶホームレス生活をしていた訳ではありません。正確には、「死にきれず仕方なかった」と消去法にちかい形で結果的にホームレス生活を選ばざるを得なかったのでした。

救急搬送をきっかけにホームレスを脱却

22年続いたFさんのホームレス生活に転機が訪れたのは2017年5月末。
栄養失調のほか67歳と高齢になったことで足腰が弱っていたのか土手で転倒。
意識を失っていたことから近くを通りかかった人が救急車を要請し緊急搬送されました。

Fさんが転倒したのは、実はこれで3回目。
1日だけの検査入院でまた小屋に戻ることができましたが、「ここにいたら、もう長くはもたない」と考え市役所へ。

生活保護を担当するケースワーカーと相談すると、生活に困窮した人の自立を支援する施設の存在をはじめて知り、「あじさいの郷下妻」(茨城県内の無料低額宿泊所)に入所することが決まりました。

ホームレス生活から施設の集団生活へ

「やっていけるかどうかわかりません。なるべく早くアパートを借りたい」
外部との接触のない生活がながく、もともと「話すのが苦手」というFさんは新たに始まる集団生活への心配を口にしました。

それから、入所して4か月。
「人づきあいは好きじゃない」という感覚に変わりはありませんが、「口は災いのもと。しゃべるのがヘタだから、誤解されて気まずい思いをしたくない」と、自分なりの距離感をしっかり保って生活しています。

「ホームレス生活と施設生活で孤独なことに変わりないのでは?」と投げかけると、Fさんは「やっぱり小屋は寒いや。食べるのに苦労しないし、ここは安定している」と肯定も否定もしませんでした。

将来へむけた葛藤とは?

今日明日の食事に不安を感じ、常に「生きるか死ぬか」が頭に浮かぶ日々。
そこから解放されたFさん。

いま一番気になっているのは何十年もたってわからなくなった住民票のことです。自分の身分を証明するものがなく、銀行口座もつくることができないことなど、今後のアパート転宅へむけた準備を施設職員やケースワーカーに相談しています。

ただ、Fさんは「もう少し買い物に便利な場所でアパートを借りたい」という願望をもつ一方で、「ひとり暮らしをして病気にでもなったらアウト」「もっと歳をとったら(高齢者施設の)やっかいになるかも」といった葛藤も抱えています。

本来「ホームレス」という言葉は、「家のない」という状態をさす形容詞。
人の名前ではありません。
「ホームレス5,534人」という統計上の数字やその推移は法制度の立案と軌道修正をするうえで重要なデータです。
しかし、それ以上に大切なのは、ホームレス生活を送る一人ひとりにフォーカスし、どのように自立を支援するかなのではないでしょうか?

文(聞き手):竹浦史展
取材日:2017.10.17

あじさいの郷下妻(無料低額宿泊所・定員65名)

茨城県下妻市平沼76-21

[お問い合わせ]
NPO法人エスエスエス 茨城支部
0297-71-2188

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