更新日:2018年6月20日
「ひどい時は10分おきにトイレへ」
前立腺がんによる頻尿が招いた生活困窮
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当事者インタビュー:Mさん(男性・66歳)
前立腺がんの罹患率は男性で4番目の高さ
男性のみなさま、こんにちは。今日は何回トイレに行きましたか?
突然、質問したのは、今回のコラムのテーマの1つが「頻尿」だからです。
いわゆる「頻尿」の目安は、昼間8回以上で「頻尿の疑いあり」という予備軍、10回以上で「頻尿」確定と思ってよいようです。
頻尿の原因と考えられる病気の1つに「前立腺がん」があげられます。
前立腺がんは、男性だけがその部位を有する特有のがん。男性の罹患率が胃がん、大腸がん、肺がんに次いで4番目に罹患率が高いがんとなります。
(「国立がん研究センター がん情報サービス」https://ganjoho.jp/public/index.htmlより)
今回の当事者インタビューは、前立腺がんによる頻尿が原因で生活困窮に陥った男性のお話です。

頻尿が原因で「寺男」をクビに
Mさん(男性・66歳)が「トイレが異常に近い」と感じ、病院で診察を受けたのは、今からちょうど1年前(2017年)の3月。父親のお墓があるお寺で清掃管理等のアルバイトをしていた時のことでした。
はじめは1時間に1回トイレに行く程度の異変でしたが、それが30分おき、10分おきと、どんどんトイレが近くなっていきました。
Mさんの仕事は昔でいう「寺男」。
お寺の境内と1200ほどのお墓が立ち並ぶ墓園の清掃管理をはじめ、来客の案内・送迎などをしていましたが、あまりの頻尿で仕事になりません。
ついには休みがちになってしまい、雇い主である住職から「体を治してくれ」と、アルバイトとはいえ、8年間つづけてきた仕事をクビになってしまいました。

前立腺がんと判明し「町田荘」に入所
病院で診察を受けてから検査をつづけると、頻尿の原因は前立腺がんと判明。
一旦は手術を勧められましたが、ただでさえ仕事をクビになり診察代の支払いが厳しい状態。それに加えて高額な手術代を支払うことができる見込みはありません。
ついには、貯えも底をつき生活費や家賃のメドも立たなくなったため、Mさんは市役所に相談。生活保護を担当するケースワーカーより、町田荘(東京都内の無料低額宿泊所)の紹介をうけ、生活保護の申請と同時に入所が決定しました。

「衣食住の心配がないことが、ありがたい」
町田荘に入所し、施設長の勧めにより大学病院へ転院することになったMさん。
主治医と相談の上、手術ではなく、抗がん剤の注射と服薬で様子をみることになりました。
それから2か月に1回の注射のたびに血液検査を受け、現在では「ある程度がんをおさえることができている」と言われていますが、今後は放射線による治療もスタートする予定です。
Mさんは、前立腺がんと向きあい、「衣食住の心配がないことが、ありがたい」と話します。しかし、生活困窮のもとをたどると、頻尿による失業だけが原因ではないことが分かってきました。

断熱工事を自営で38年間していたことも
実はMさんがお寺の仕事の前にしていたのは断熱工事。
10代の頃から技術を身につけ、廃業するまで38年間、個人事業主として設備工事の仕事を続けていました。
断熱工事は、私達にも身近な一般家庭の水道管まわりをはじめ、火力発電所のポンプやバルブ、自動車工場で重油やガソリンを貯蔵する地下タンクにも必要な幅の広い設備工事です。
Mさんは、「良い仕事こそが1番の営業になる」という自負を持ち、「使ってやるからがんばりな」と多くの取引先から信頼を得るだけでなく、「一級熱絶縁施工技能士」「低圧電絶縁施工技能士」といった関連資格の取得にも励みました。

無年金・無貯金というリスク
ところが、こうした努力もバブル崩壊とともに水の泡に消えてしまいます。
好景気から一転、不況に突入すると、それまでMさんに仕事をくれていた大手建設会社はお抱えの一次事業者を守るのが精いっぱい。
いわゆる孫請けの個人事業主は「切られてしまった」といいます。
手に職をつけてきたMさんも例外ではなく、長年培ってきた技術と経験を発揮できる場所はなくなってしまいました。
この失業を機に縁あってはじめたのが「寺男」の仕事だったわけですが、Mさんは職業人生を通じて年金をかけたことはなく、「宵越しの銭はもたない」とばかりに貯金もほとんどしてこなかったために、無年金・無貯金といった何かあればリスクにさらされる状態にあったのです。

「子ども達の���めに仕事をしてきた」のその先へ
無年金・無貯金であったとはいえ、長年まじめに働いてきたMさん。
その原動力は、20代で離婚した時に引き取った2人の娘の存在。
「子ども達のために仕事をしてきた」と、育児こそ両親や姉に任せてきましたが、娘2人が結婚して出産し、孫ができてもなお経済的な面を支えてきたのでした。
前立腺がんの治療を抜きにすれば「仕事をしたい」「ひとり暮らしをしたい」という希望をもつMさんですが、「自立できるようになるまでは(生活保護)をお願いしたい」と考えています。
Mさんは、1時間ほどのインタビューの間に3回トイレに立ちました。
あなたの頻尿は大丈夫ですか?
そして、それだけではなく、無年金・無貯金といったリスクへの対策は考えてありますか?

文(聞き手):竹浦史展
取材日:2018.03.28