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更新日:2017.08.29

10年間で3,500人の自立を支援
ひとの命と等しい支援者の責任とは?

スタッフインタビュー:有吉照夫

#千葉 #50代 #スタッフ #相談支援

自分も本当に困窮し、そして今がある

千葉支部で10年間以上、累計3,500件を超える人たちの相談を受けてきたのが相談所所長の有吉です。
自身も、生活困窮に陥り、施設に入所した経験の持ち主。
相談員になった当初は、以前の自分と同じ境遇にある人をなんとかしたい、それだけでした。 しかし、様々な経験の人と出会うことで、相談員としての仕事の重みを感じ、
今、責任をもって一人ひとりの相談者に向き合っています。

成功と失敗

地元北海道で12年ホテルマンとして活躍したのち、有吉は青果ギフトの事業を立ち上げました。
バブルで夕張メロンが高値で売れた時代。事業は堅調な伸びをみせていきました。
しかし10年がたったころ、経営を手伝っていた妻ががんで入院してしまいます。

自分は買いつけに出かけなければならない。多額の現金が入った金庫の鍵を、はじめて工場長に預けました。しかし、設立当時から一緒にやってきたその工場長が金庫のお金を持ち逃げ。
「取引日の午後3時までに現金払い」という卸売市場の決済ルールを反故にしたことから2年間の取引停止処分を受けてしまいます。

すでに決まってしまっていた年間契約。「取引先に迷惑をかける訳にはいかない」と、私財を全て投げうって、息子名義の会社に事業を託し、自分はひとり上京しました。その後も市場の仕事についたものの、 腰痛が原因でつづけられなくなり施設入所に至りました。

夢も希望もなく巡回相談員になった

SSSには、施設の利用者がスタッフとなり再起をはかることのできる雇用創出制度があります。 入所からわずか3か月、巡回相談員として白羽の矢が立った有吉。

しかし当の本人は「夢も希望もなかった」といいます。
かつて自分もそうだった困っている人たちに
「飯たべさせてやりたい、布団で寝さしてやりたい」ただ単純にそれだけ。
社会貢献なんて大それたことは考えていませんでした。

でも、倒れている人がいたら、声をかけるだけではなく、施設に入所することで、ゆくゆくは生活の安定がはかれる。
「困っている人を次のステージにあげる」という相談員の仕事の意味を感じられるようになりました。 しかも、入所したいという人がいたら、相談所へ連れて行くと、それで涙を流して喜んでくれた。 「ちょっと役立ったかな」と思えると同時に、「うそがつけなくなった」と話します。

何が本当にその人のためか

2年後、有吉は前任者から引き継ぐ形で相談所の所長になりました。
「正直に伝えてあげたい」という気持ちを胸に、相談者にはいつもまず
施設の状況をありのままに伝えています。

その上で、「何が本当にその人のためになるのか」を一緒に考えています。

最近多い相談は、年金受給額が最低生活費にわずかに満たないケース。
一昨日の相談者は、年金が月額にすると106,800円。今まではアパートの家賃28,000円や各種保険料を支払いながら、細々と生活してきました。
ところが、建物の老朽化により立ち退きせざるをえなくなり、
「前々から言われていたのに今日までいくところが見つからなかった。」

保証人のいない高齢単身者は入所を拒否される場合が多いのが現状。
アパートを出てからビジネスホテルで過ごし、ついに手持ち金が底をついての相談でした。 この方は施設入所とともに、生活保護を申請することになりました。
それと同時に、次の年金支給までに次の道をどうするか、有吉は本人とよく話し合いをしました。
そのまま施設生活を継続するのもいいが、本当はどうするのが一番いいのかを2人で一緒に考えました。 こうして出た答えは、礼金・手数料・保証人の要らないUR賃貸を探し、施設を出るという目標でした。

入所しなくてもいいと思ってるんです

相談者が100人いれば、100通りの人生があり、考え方がある。
選択肢は幾重にもあるのだから、こちらから決めつけることはしたくない。
その人の希望に近づくためにより良い方法が、SSSの施設入所でないならば、
「入所しなくてもいいと思ってるんです。」

こちらも正直に伝え、その人の本音を聞き出すことを大切に。
たとえ面談に時間がかかったとしても、相談者にとって最善の方法を考えること、それを信念にしています。

相談員は命に直結する仕事をやっている

有吉が克明に覚えているという相談者が2人います。
その2人ともが、相談にのったあと、自ら命を絶ってしまった。

7年前、1人の男性が、房総地区からわざわざ千葉市内の相談所を訪れ、入所の 相談をされました。有吉所長は、精神疾患を持つこの男性の話を親身にきき、結果的には本人の意思で、それまですごしてきた場所に戻ることになりました。
「もう1回やってみよう」そう言って送り出したはずでした。
ところが後日、この方のお姉さんから有吉あてに連絡が入りました。

それは、なんとこの方が入水自殺をしたという連絡でした。
「入所を断るなんて」と責められて当然。
そのはずが、お姉さんは「弟の話を真剣にきいてくれてありがとう」と。
男性が有吉へ残した遺書。そこには「有吉さん、ありがとう。有吉さんに言われたことは一生忘れません。」そう感謝の言葉が綴られていました。

もう1人の相談者は、今年、やはり精神疾患を抱えた女性でした。
母親のために仕事を辞め、離婚し、3年間介護をつづけてきたが、同居の弟からの暴力があり「もう疲れた」と、逃げるように家を飛び出してきたのでした。
「お母さんを見殺しにした」「私はひどい女です」と話すこの女性と、有吉は何が最善なのかを真剣に話しあいましたが、本人の決意は固く、施設への入所を決めました。

しかし、自責の念からか、最終的にこの方も自ら死を選んでしまいました。

「入所につないでも、つながなくても、両方自殺という結果になって、すごくこたえた。」 これが有吉にとって、いままでで一番無力を感じたことです。

相談員は、相談にのって入所を判断する立場ではあるけれど、その人の生活、ひいては人生を左右してしまう。
その人にとって何が最善の方法かを見つけ出すことは簡単なことではありません。

「僕らはとても重いもの、人の命に直結する仕事をやっている」
このことを決して忘れずに、
1日1日を大事に、相談者に向き合っていく。
これが有吉の、相談員としての責任の果たし方です。

文(聞き手):梅原仁美

有吉照夫(ありよしてるお)

1960年6月生まれ/2006年入社
特定非営利活動法人エス・エス・エス(NPO SSS)
千葉支部 相談所 所長
北海道出身。趣味は野球観戦。
好きなチームは北海道日本ハムファイターズ。

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