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更新日:2017.09.14

「すべてを放り出してどこかに行ってしまいたい」
現実逃避をホンキで考えるあなたへ

当事者インタビュー:Sさん(男性・63歳)

#埼玉 #60代 #路上生活 #入浴サービス

現実逃避したくなる世の中で

「仕事に疲れた」「人間関係にうんざり」「なにもかもどうでもいい・・・」
あなたは、仕事に追われ、息のつまるような人間関係に苦しみ、明るい未来を思い描くことができないなど、日々の生活に閉塞感を感じていませんか?

公園でぼーっと過ごす、趣味に没頭したり、旅行に行くなど現実逃避の程度は人それぞれかと思いますが、 「すべてを放り出して、どこかに行ってしまいたい」と考えたことのある日本人は9割にのぼるといったら、言い過ぎでしょうか。

とは言っても、実際に仕事や家庭などをすぐに放り出せる人は、ほぼいないはず。
しかし、世の中にはやむにやまれず家を飛び出したり、職場から忽然と姿を消す人も確かに存在します。

今回の当事者インタビューは、自らの意思でそれまでの生活をリセットし、
「放浪」とホームレス生活を経験した男性のお話です。

「入浴サービス」をきっかけに路上生活を脱却

「あ~さっぱりした!」
2012年1月末、数か月ぶりの湯舟につかり大浴場からでてきたSさん(男性・当時58歳)
合計2年半におよぶ放浪とホームレス生活が終わりを告げた瞬間でした。

それまで橋の下で暮らしていたSさんが利用したのは「SSS入浴サービス事業」。
浦和第1寮(さいたま市内の無料低額宿泊所)で月2回実施されており、ホームレス生活をする人が入浴や食事をすることができるデイサービスのような事業です。

「東京から離れたい」と東北へ

Sさんがなぜホームレス生活をしていたのか、話は2009年にさかのぼります。
金属加工のプレス工として合計40年以上のキャリアをもつSさん。
2つの会社で長年、働いてきたものの、それぞれ倒産で退職。
その後、社員寮つきの土建業の会社に再就職しました。

ところが、入社して半年ほどの間に仕事が減り、ついには1か月のほとんどを寮で待機することに。社長に状況を確認しましたが、あいまいな返事しかしてもらえません。

そして、ある日のこと、夕食を終え、最低限の荷物だけを持ってこっそり寮を出ていくことにしました。

断りを入れずに寮をあとにしたのは、「なにもかも嫌になった」のと、自分のキレやすい性格を分かっているからこそ。
「プチっといったら社長と大ゲンカをしてしまう」と考えていました。

そして、「会社に探されると面倒がおきる。東京から離れたい」と、
父親の出身地で何度も行ったことのあった山形へと旅立ちました。

東北の全県を徒歩で「放浪」

ここから信じられない「放浪」がスタート。
群馬の草津温泉までは電車で移動し、その後、所持金の少なかったSさんは、なんと徒歩で山形を目指します。
群馬 → 新潟 → 福島 → 山形
暑さを避けて基本的に移動するのは夜。山の中をひとり、サルやシカ、時にはヘビに遭遇しながらも「楽しかった」と振り返るSさん。

さらには、せっかくだからと、山形からさらに北を目指します。
山形 → 秋田 → 青森
そして、そこからUターン
青森 → 岩手 → 宮城 → 山形 → 福島 → 群馬

時には1日9万歩ほど歩いた時もありましたが、道中では親切な人が車で送ってくれたり、食べ物や衣類をくれることもありました。また、不審者として警察官から職務質問を受け、パトカーで県境まで送られることもしばしばでした。

橋の下でホームレス生活をスタート

Sさんの靴の底に穴があき、新聞紙を突っ込んでも水が入ってくるようになった頃、群馬から埼玉に到着。季節は冬。
放浪をスタートして5か月近くが経過し、2009年12月を迎えていました。

さいたま市に移動してくると、小さな川にかかる橋の下にちょうどいいねぐらを発見。木材とブルーシートで作られたその小屋は、雨風や寒さをしのげるだけでなく布団も敷いてありました。

それから、近くの駅や橋の下で出会った人や近所の中学生らと仲良くなったSさんは、この橋の下で2年あまり定住することになったのです。

ホームレス巡回相談員に救われた

橋の下で暮らしはじめて半年ほどたった頃、さいたま市のホームレス巡回相談員と名乗る女性が現れました。「元気?」と体の調子を気づかってくれ、その後、月2、3回は訪問してくれるようになりました。

こうして信頼関係ができていく中で「SSS入浴サービス事業」の情報提供を受け、そこでは入浴や食事、生活相談ができたり、済生会病院との連携による健康相談もできると知りました。

そして、「生きようとするために自分が何をしてしまうか分からない」と盗みなどの犯罪に手を染めてしまうことを恐れていたSさんは、2年あまり生活した橋の下から入浴サービスの利用を選択したのでした。

現実逃避をホンキで考える前に

Sさんは、これまでの人生を振り返って「失敗したと思っていない」と話します。
それどころか、「いい経験をした」「面白かった」とポジティブに語ってくれます。

入浴サービスを経て施設に入所し、現在は5年ほどが経過。一時は再就職も目指しましたが年齢を理由に不採用がつづき、年金と生活保護で生活しています。
(65歳で年金の受給額がふえる予定のため、生活保護を辞退できる見込み)

Sさんは幸か不幸か、結婚をしておらず、人生のほとんどが寮生活。
家族がなく、家もありませんでしたが、40年以上まじめに働くことができ、「放浪」やホームレス生活でもビクともしないほどの健康な体、そして何よりあっけらかんとした明るく前向きな性格を持ち合わせていました。

もし、あなたがホンキで現実逃避をしたいと考えているなら、一度冷静になる必要があるかもしれません。
別の人生を選択した後、また新たな困難が降りかかることもあるでしょう。

あなたは、それらを乗り越えるための心と体の準備ができてますか?

文(聞き手):竹浦史展

浦和第1寮(無料低額宿泊所・定員84名)

埼玉県さいたま市緑区東浦和2-58-6
SSS入浴サービス事業
浦和第1寮および川口寮にて実施中
※浦和第1寮では2012年4月より、のべ708人が利用(2017年8月末現在)
[お問い合わせ]
NPO法人エスエスエス 埼玉支部
048-640-5352

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