


生活に困窮する人を支援する現場では、生活歴や相談の経緯から「自立が遠い」と直感してしまう「困難ケース」も少なくありません。
「困難ケース」に結びつくキーワードは、アルコール、ギャンブル、万引きなどの警察沙汰。このほか、住所不定はもとより、自立を支援するための施設を転々など・・・。
私達は、これらのキーワードを耳にしたり、記録を目にしたとたん、「どうせまたダメ」という先入観をもってしまうことがあるのではないでしょうか。
今回の当事者インタビューは、こうした先入観に反して、自立支援施設等の入退所を繰り返してきた男性が就労し、安定した生活につながったお話です。

生活に困窮する人の生活を支援するための施設「O荘」(東京都内)で生活するAさん(男性・当時57歳)。
万引きなどで合計3回の服役経験があり、一見すると強面というのも手伝ってか、いわゆる「問題児=困難ケース」という先入観につい駆られてしまいます。
それを裏づけるように、Aさんは40代後半で最後の実刑をうけたあと、10年ほどの間に(覚えてるだけで)5回も自立支援施設の入退所を繰り返してきました。
退所の理由は共通していて、そのすべてが「人間関係のトラブル」。
共同生活の中で悪口などを言われると「嫌気がさしたり」「カッとなって」荷物も持たず「体ひとつ」で施設を飛び出したことも1度や2度ではありません。

O荘への再入所のきっかけも他施設での人間関係がうまくいかず、以前かかわりのあった支援スタッフに連絡がはいったこと。
生活が落ちついてきた頃に生活保護の担当ケースワーカーを交えて行われたケースカンファレンスでは、「引き続き安定した生活を送ること」や「地域移行へむけて就労すること」などが話し合われました。
これまでのAさんの仕事は日雇いばかりで、長くつづいたのは20年ほど前のとび職だけ。支援員は先入観をわきに置き、Aさんを東京都の就労支援事業の清掃実習や単発の仕事に結びつけ、さらに「長くできる仕事がしたい」というAさんのステップアップにあう仕事を探しました。

ほどなくして採用が決まったのは、公共施設の自転車を整理する仕事。
これまで日雇いなど単発の仕事ばかりをしてきたAさんにとって、この継続した仕事には「これまでとは違うぞ」という特別な思いがありました。
その特別感も支えの1つになっているのでしょう。
週4日の駐輪場の仕事で「朝起きておっくうだなぁ」と感じたり、「雨が降ったら大変」と思う時もあるそうですが、「行ってしまえば、あとはなんとかなる」と、まじめに働いて早1年が経過しようとしています。
Aさんの働いている姿をみて周囲の人も声をかけてくれるようになり、「まじめにやってるね」と公共施設の職員にほめられたり、「寒い中、ご苦労様」と一般の方にねぎらいの言葉をもらえるようになりました。

継続的な仕事にも慣れ、生活が安定しているAさんの次のステップは地域移行です。
しかし、担当ケースワーカーとの話し合いの中でアパート転宅を進める方向になりかけたその時、Aさんは「もう少し時間がほしい」といったん態度を保留しました。
なぜそうしたのか、Aさんに理由をたずねてみると、
「字が書けないから」と一言。
おもむろに「愛の手帳(東京都療育手帳)」を差し出し、知的障害者手帳の取得について話してくれました。

振り返ればAさんは、幼いころから友人関係をうまく作れず、「よく一人で虫採りや釣りをして遊んでいた」とのこと。
また、「読み書きができない」ことで、「若いころから苦労した」といい、さまざまな手続きや契約に不安をもってきたということでした。
Aさんが知的能力に困難さを抱えてきたとすれば、人間関係のトラブルがあった際に自分の気持ちをうまく表現できなかったり、「施設を飛び出す」といった衝動的な行動を繰り返してきたことも理解できますし、その一方で自転車の整理という比較的かんたんな繰り返し作業に適性があることもわかります。
過去の調査では、Aさんのように知的障害が疑われる利用者が4割以上にのぼるといった結果もでており、知的能力に困難さを抱え、人間関係や日常生活、そして働き方にミスマッチを起こしている人も少なくないと考えられます。

2020年4月より、厚生労働省は、無料低額宿泊所を新たに「社会福祉住居施設」と位置づけて「規制を強化」するとともに、「日常生活上の支援を提供する仕組み」として「日常生活支援住居施設」を創設しました。
生活に困窮する人を支援するためには、住居の受け皿が必要なことはいうまでもありませんが、Aさんの例のようにどのような問題を抱えている人なのかを見極めるためのアセスメントがとても重要だと考えられます。
Aさんは「アパート転宅の時期は未定」というものの、「(仕事は)元気なうちは続けたい。それが人のためでもあって、自分のためでもある」と自分の言葉で語ってくれました。
日常生活支援住居施設と支援スタッフによる関わりにより、困難ケースと思われがちな人に対する先入観も払拭され、より適切な生活支援にむすびつくことが期待できると考えられます。
※以上のコンテンツは、過去のインタビューをもとに加筆修正したものになります。