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更新日:2018.05.09

「車上生活でガマンした」
服役中の夫を待つ母子の困窮と孤立(前編)

当事者インタビュー:Kさん(女性・55歳)

#埼玉 #50代 #母子 #車上生活

あなたの家族が罪を犯したら

あまりに現実とかけ離れた質問かもしれませんが、もし、あなたの夫、妻、子ども、親といった、家族が犯罪をしてしまったら、あなたはどうしますか?

そして、逮捕され、そのまましばらく家族の元を離れて服役することになったら・・・。

近年、「司法と福祉の連携」が社会的な課題として着目され、刑務所などの矯正施設と福祉サービスの間を埋める取り組みが増えつつありますが、それはあくまで罪を犯した本人を対象としたもの。

残された家族を対象とした支援をあまり耳にしたことがないのは、私だけでしょうか。

今回の当事者インタビューは、夫の逮捕・服役をきっかけとして車上生活に陥り、社会的に孤立しながらも、「人間の暮らしに戻れた」という母子のお話です。

夫が窃盗罪で逮捕された

今から5年ほど前、それは突然のできごとでした。
Kさん(女性・当時50歳)が住んでいた借家に数人の警察官がやってきました。夫と息子の3人の生活の場。混乱と恐怖が渦巻く中、夫は窃盗の容疑で逮捕され、そのままパトカーに乗せられていきました。

その後、夫は窃盗の罪が確定。2年半ほど服役することが決まり、Kさん家族の生活は、これを機に一変します。

これまで20年以上、夫婦で設備工事を自営していましたが、23歳で統合失調症を発症した息子の様子をみるために、Kさんは夫と連れ立って現場へいくことをやめ、派遣の仕事に切り替えて2、3年がたった頃でした。

生活に困窮して家賃滞納

突然、大黒柱の収入が途絶えると、もともと自転車操業だった設備工事の材料代のツケも押し寄せるなど、Kさんが時間をみては派遣の仕事をしても家計がもちません。

結局、1年もたたないうちにガス代の支払いなどができなくなり、家賃も滞納。
ついには借りていた住まいを強制退去することになってしまいます。

親兄弟など、頼れる人もいなかったKさん親子。
当座しのぎとして所有していた乗用車に寝泊りすることにしましたが、「1か月くらいでアパートを借りられるだろう」という考えが「甘かった」と気づくのにそう時間はかかりませんでした。

親兄弟など保証人のいないKさんは、アパートの契約時に保証会社を使うことを考えていましたが、審査でNG。そうこうしているうちに、とても敷金礼金などを用意できる状態ではなくなってしまいました。

車上生活のはじまり

そこから10か月。
「人間の暮らしじゃない」とKさんが振り返る車上生活がはじまりました。

実は車上生活を送っていても、「食べていくため」Kさんはこれまでしてきた派遣の仕事を続けていました。
精神科に通院させることができず症状が微妙な息子を車にのこし、Kさんは稼ぎのよい夜勤をしにいきました。

生活サイクルを説明すると、夕方までに食事やコインランドリーでの洗濯を済ませ、銭湯で入浴、身支度を整えて夜9時から翌朝6時まで製本工場の仕事。
日中は生活の拠点となる車で過ごしますが、おもに「1時間まで無料」のスーパーの駐車場に停めていたので、ちょこちょこと車を移動させる生活でした。

息子の統合失調症が悪化

なんとか1日1日を乗り切っていく車上生活でしたが、通院も服薬もできていなかった息子の統合失調症が悪化します。

ついに息子は夜間に一人で車にいることが難しくなり、Kさんは夜勤ではなく給与の低い日勤を選択せざるを得なくなりました。

1日当たりの使えるお金が減り、食費は削れてもガソリン代や駐車料金を削ることができません。唯一の救いは自立して離れて暮らしていた2番目の息子が食べ物などを助けてくれたことでした。

社会から孤立

ただ、離れて暮らす次男も本来は自分のことで精一杯。
住まいも社員寮だったため、同居という訳にはいきません。

そして、さらにKさん自身も仕事先のケガが原因で「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という細胞を壊死させる炎症を右足に負ってしまい、仕事に行くことができなくなっていきました。

本来であれば昔の友人知人を頼りたいところでしたが、夫が逮捕されてからというもの連絡が途絶え、「犯罪者の家族」として世間から後ろ指をさされている感覚がぬぐいされなかったKさん。

勇気を出して「助けてほしい」「どうしたらよいか教えてほしい」とかつての友人達に連絡をしてみると、「何もしてあげられることはない」と冷たくあしらわれるばかりか、電話を取らない人がほとんどでした。

心ない若者達による身の危険も

ガソリン代を払えなくなってくると、新たな身の危険も感じるようになりました。車をほとんど動かすことができず、駐車場も定位置に。
すると、Kさん達の存在に気づき、興味をもった若者達が心ない行動をしかけてくるようになったのです。

たちの悪い若者達は車の周辺にたむろすると、「なんだコイツら」「(SNSに)投稿しようぜ!」と車を揺らしたり、スマホをかざしてきます。
さらには、Kさんがスーパーに買い物に行ったスキをついて「ドアをあけろ!」「殺すぞ!」などと、頭から毛布をかぶる息子に罵声を浴びせるのでした。

Kさんは気づくたびに駆け寄り、「警察を呼びますよ!」と追い払いましたが、怒りと恐怖を思い出し、今でも話す言葉が震えます。

生命の危機

春から車上で生活を送り、季節は冬。
1月の雪が降る夜にスーパーからの連絡を受けた警察官がKさん達のもとにやってきました。

半月ほど動けなくなっていたこの時、食べる物も底をつき、携帯の充電もできず、頼みの綱は小銭の600円。

警察官は「当直室で保護するから」と言ってくれましたが、警察署までが遠く、そして、「またこの場所に戻ってこなくては」という考えが頭をよぎり、その提案を断りました。

もはや、生命の危機を迎えたKさん達のその後、そして、刑務所に服役している夫との関係については、
「車上生活でガマンした」服役中の夫を待つ母子の困窮と孤立(後編)
に続きます。

文(聞き手):竹浦史展
取材日:2018.2.20

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