


厚生労働省は、2020年4月より「日常生活支援住居施設に関する厚生労働省令」を施行。また、同時に「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準」を改正しました。
これらにより、ひとりで暮らすことが難しい生活保護受給者に対して、無料低額宿泊所における日常生活上の支援を確実に行うことができるよう、基準や仕組みが整えられました。
生活に困窮した一人ひとりの持つ課題を受け止め、その課題を解決するためには何が必要かを一緒に考え、支援を行う。
一口に支援とは言っても、利用者の年齢、性別、生活歴や健康状態は人それぞれ異なり、必要なサポートも違います。
今回は、日々第一線で利用者に向き合っている現場の支援スタッフに話を聞きました。

JR常磐線のとある駅から歩いて10分に位置する「ポプラの郷」
ここで43名の利用者の支援にあたっているのが施設長の大橋さんです。
大橋さんは、新たに入所する人に行う面談を
「その人との最初の接点である」と考え、とても大切にしています。
どこで生まれたのか、何人兄弟で育ったのか、どうして困窮してしまったのか・・・
じっくりと時間をかけて話を聞き、その人の性格や、長所・短所を知ることを心がけていると言います。
それは、所定の「アセスメントシート」をただ埋めるだけの作業ではなく、
「生活のスタートから、これからを一緒に考える」作業だと話します。
そしていつも必ず伝えていることがあります。
「どんなに小さなことでも、ひとりで抱えこまず、相談にきて」
施設での暮らしは集団生活であり、他の利用者との関わりは避けることができません。周囲にうまくとけこみ安定した生活ができなければ、自立にむけた課題解決はより難しくなってしまいます。
「全てを解決することはできないかもしれないが、話してくれることが大事」
些細な悩みであっても、一人ひとり丁寧に話を聞くようにしています。
その結果、実際に毎日のように利用者が相談にくるそうです。
「この仕事は、少しでも頼りにされてナンボの職業だから」
「この人に言っても何も前に進まない、と思われたら終わり」
「自分が真摯に対応すれば、こちらからのアドバイスだって素直に受け入れてくれる」
この施設が「利用者間のトラブルは無い分、相談はしょっちゅう」であることの所以です。
こうして普段から利用者一人ひとりと話す機会がとても多い大橋さんですが、その効果は利用者の自立支援に確実に結びついています。
最初は、対応に比較的、労力がかかる数名の利用者について、日誌を書きだしたのが始まりでした。
相談の内容や、気づいたことを手書きでメモする程度だったのが、
利用者全員の「生活記録」を作成するまでになりました。
大橋さんは、福祉事務所のケースワーカーが利用者と面談を行う際に、これらの記録を共有するようにしています。日常生活の様子はもちろん、注意しておいた方が良いこと、さらには褒めることも沢山書いているといいます。
面談前後にはケースワーカーとの会話も欠かさず、
「(役所の担当者とは)とても密に連携させてもらっている」と笑顔をみせます。
また、利用者が医療機関にかかる際、必要に応じて通院の同行もしている大橋さん。
精神疾患、依存症、生活習慣病といった疾患は、特に普段の生活状況が診断や治療に大きく関わってくる疾病です。普段からきめこまかく記録をしておくことで、的確に生活状況を医師に伝えることができるため、非常に役に立っています。

大橋さんが「困っている人の力になりたい」と考える背景には、自身の両親の影響があると言います。
「うちの両親は、どんな訪問販売や訪問勧誘が来ても、必ず家にあげてお茶を出していた。ひとしきり話をきいて、本でも商品でも買ってしまうものだから、家には必要のない物が沢山並んでいた」
そして両親は、いつも大橋さんにこう問いかけていました。
「今日、誰か人のために、何か一つでもしたか?」
「失敗したとき、辛い状況の時こそ、声をかける時だよ」
人の痛みが分からないと、自分が苦しんだ時に、誰も助けてはくれない。
「みんな人だから、一人ひとり大事にする」
大橋さんはこの両親からの教えを、いつも頭に入れて生活しています。

会社が倒産した
体を壊して働けなくなった
家賃を滞納して追い出された
施設に入所してくる人たちの多くは、
「ついこないだまで、ふつうの生活をしていた人たち」
大橋さん自身も、自営で建設業を営んでいたのち、生活に困窮した一人です。
入所して半年で「施設内スタッフとして働いてみませんか?」と声がかかり、他施設での経験を積んで、ここポプラの郷の施設長に着任しました。
「自分も同じ道をたどってきているからこそ分かる」
ただでさえ、身詰まりな思い、みじめな思いをしているのだから、利用者には
最低限ではなく「ふつうの生活」をしてほしい。
地域のアパートや高齢者施設、会社寮へ転居した人には、必ず会いに行き、近況や悩みを聞いている。
入院している人には、病院にお見舞いに行く。
亡くなった利用者のお墓にお参りし、お花とお線香を手向ける。
「人としての尊厳だけは守りたい」
施設にいる間も、施設を出たあとも
「ふつうのおつきあいをしていきたい」
年齢、性別、生活歴や健康状態、みんな違う一人の人間として、
相手の顔を見て話を聞き「人として大事にする」
大橋さんは、このゆるぎない想いを胸に、
今日もまた利用者一人ひとりの相談にのっています。
1955年5月生まれ
特技は大工仕事。宅地建物取引士としての知識もいかし、転宅希望者には不動産屋への同行支援も積極的に行っている。
現在は茨城県内の日常生活支援住居施設で活躍中。
※以上のコンテンツは、過去のインタビューをもとに加筆修正したものになります。